「優しい虐待」という言葉を知っていますか?
虐待と聞くと、暴力的なものをイメージすることがほとんどのはず。
ですが「これも虐待なの!?」と思うようなことが、
じわじわと子供の心を蝕んでいることは、少なくありません。
社会現象として、静かに注目されはじめている「優しい虐待」。
表立って取り上げられていないのも、
この虐待の性質によるものなのかも知れません。
今回は、このキーワードについて詳しくお話していきますね。
優しい虐待とは?原因は?
身体的暴力や、ネグレクト(育児放棄)などは、
周囲から見ても明らかな虐待行為です。
親にとっても、受けている子供にとっても、
何らかの「虐待」という意識はあるはず。
ですが、この「優しい虐待」には、
している本人も、されている子供も気付いていないという異質さがあります。
甘やかし=優しい虐待ではない!
「優しい」という言葉から、これを「子供を甘やかし過ぎるという虐待」と思われる場合があります。
子供が望むままに、お菓子やゲームを与えて、
自立しない子供に育てる、という解釈です。
ですが、これは間違い。
もちろん、このような状態も子供の教育上良いとは言えませんが、
「優しい虐待」として問題視されているのは別のパターンなんです。
優しい虐待とは、
子供が小さい頃に、親が自分の思い通りにコントロールしようとすること。
それにより、
子供の心に心理的外傷(トラウマ)を残すことです。
子供が小さい頃に、親が自分の思い通りにコントロールしようとすること。
それにより、
子供の心に心理的外傷(トラウマ)を残すことです。
では実際に、
どのような家庭や子供が、この虐待に陥りやすいのか。
詳しく見ていきましょう。
優しい虐待の特徴
優しい虐待をしてしまう家庭は、周囲から見ると「理想の家庭像」であることが、とても多い傾向があります。
教育熱心な親、行儀も良くしつけの行き届いた子供。
一見すると、何の問題もなさそうな感じです。
ですが、子供が成長していく中で
「自分は親の理想通りの子でいなければ」
というストレスを強く感じるようになります。
そして、このストレスによって、
不登校や引きこもりが誘発されるケースが増えているんです。
いわゆる「良い子の破綻」として、
専門家も、この優しい虐待が原因のひとつであると声を上げています。
<家庭の特徴>
- 子供の教育に熱心
- 両親が子供の頃に優等生だった
- 両親が子供の頃、厳しいしつけや教育を受けていた
- 子供への物理的な暴力などがない
<子供の特徴>
- 長男や長女、または一人っ子
- 勉強や習い事に熱心に取り組む
- 優等生で素行に問題がない
- ワガママなど、自分の意見を主張しない
周りからすれば、理想的な親子ですが、
親が「自分の期待に子供が応えるとき」にだけ、
強い愛情表現を示すようになると、優しい虐待が始まります。
そうすると、子供は、
「良い子でなければ親に愛されない」
…と認識するようになります。
そうなると、
無意識に「良い子でいなければいけない」と思い、
親の期待に応えようとする努力を、始めるようになるんです。
自我と抑圧に苦しむ子供
しかし、子供が成長し、「自我の芽生え」や、自己の精神的な成長を迎えると、
自我と抑圧のバランスに苦しむようになります。
子供の自我
親の期待ではなく、自分の好きなように生きたい
↓↓(反発し合う)↑↑
子供の抑圧
良い子でなければ親に愛されない
このストレスが高まるほど、
子供の精神的なバランスが、崩れやすくなってしまうんです。
しつけと虐待は紙一重?
世間に出しても恥ずかしくない子
しつけの行き届いた良い子
…そんな子供に育てようとするあまりに、
過度なしつけや、教育を行ってはいないでしょうか。
2011年12月に放送された、
NHKの番組『クローズアップ現代』でも、
この「優しい虐待」が取り上げられていました。
不登校などの問題を抱えた親子のカウンセリングを行ってきた、
長谷川博一教授は、この番組の中でこんな言葉を投げかけました。
『しつけと虐待は、本質的に心理面では同じことが起きているのです。間違ってはいけないのは、怒鳴る、叩くようになってから虐待が始まった、とする考えです』
『子どもを親の思い通りさせようとする“しつけ”そのものがすでに虐待なのです』
『ですから、私は、お母さんに「しつけをしないで」と言っているのです』
引用元: やさしい虐待 ~良い子の異変の陰で~
お母さんはしつけをしないで [ 長谷川博一 ] | お母さんの「熱心なしつけ」が、じつは不登校、ひきこもり、いじめ、非行、少年犯罪を引き起こしている。家庭でのしつけが、子どもの自主性を奪い、人間関係を歪ませ、子どもを自己否定に走らせているというのです。臨床経験豊富な著者が、お母さんたちに呼びかける。 |
「しつけをしないで」はある意味、衝撃的な言葉ですよね。
ですが、長谷川教授によれば
「しつけは、日常の中で子供が自然と吸収していくもの」
だと述べています。
とは言っても、
公共の場で騒がない、
ご飯を食べるときは口を閉じて咀嚼する…
こういった当たり前のマナーは、
最初はしつけないと、理解してくれないことだってありますよね。
こんな時は
「感情的にならない」
「子供の感情を否定するような言い方をしない」
というところに気を付ければ、
子供にいらぬプレッシャーを与えずに済むのかな、と思います。
「〇〇してくれないと、お母さん悲しい」
「勉強しないこは嫌いだよ」
…という言葉も、気を付けなければ言ってしまいそうになります。
ですが、これも「条件付きの愛情」であると、
子供に思わせてしまい、注意が必要です。
親の愛情には条件などなく、
どんな時でも自分は親に愛されている
…という自信を子供に持たせることが、
本人たちも気付かない「優しい虐待」を防ぐために、
一番大切なことなのではないでしょうか。